坂口安吾全集12 明治開化安吾捕物帖(上)

昭和25年から26年にかけて「小説新潮」に連載された11篇を集めたもの、らしい。

舞台は明治20年頃の東京で、探偵役は元・旗本の息子で洋行帰りの結城新十郎。

他には、結城家の右隣りの住人で警視庁剣術指南役の泉山虎之介、左隣りの住人で田舎通人の戯作者・花迺屋因果、それから、毎回新十郎の鼻を明かしてやりたい虎之介が事件を持ち込むのが狂言回しの探偵役・勝海舟

作者が口上で明言している通り、どの話も、事件が起こり、虎之介が海舟に相談に行き、海舟が推理を虎之介に話し、その推理を心中に抱えて虎之介が謎解きの場に行き、そこで新十郎が真相を説き明かし、最後に顛末を虎之介から聞いた海舟が「満足そうに」負け惜しみを言う、という構成。

最初の話で語られた以上には個々の登場人物の性格は語られないのだが、海舟に関しては毎回毎回「研いだナイフで指先や後頭部の『悪血』をとる」という描写があって、私には余り馴染みのない癖であるし、やたらそれが心に残って、そのべらんめえ口調と相俟って、飄々としていて、でも何となく底知れないような海舟のイメージを形成している。


話の方は、「捕物帖」とあるけどほとんど立派に推理小説。ただ、探偵役の謎解きよりも事件の描写にページが割かれていて、キャラクター描写が少ないのもあって、どちらかというと「犯罪」小説みたいな感じ。収録順が後になればなるほどその傾向が強い。

個人的には最初からの4篇が好き。