大絵巻展 @京都国立博物館

知り合いに招待券をもらっていたので、午後から行ってきたが、それはもうすごい人手だった。すごかった。いつかの雪舟展のときのようだった。特別展の展示館内に入るのに1時間ちかく並ぶという有様。せっかくだから並んで見てきたけれども。

おそらく目玉は源氏物語絵巻鳥獣戯画で、それをガラスケースの真ん前で見るためにその展示室の前の前の部屋あたりまで行列が出来ていた。
私はそんなに絵巻に対して知識も情熱もないので、その2作品は人ごしにちらちらみただけ。代わりにいろんな寺の縁起系の絵巻やら、高僧の人生絵巻やら、人のあまりたかっていない物語絵巻やらを中心に見た。

なかでも『福富草紙』というのがべらぼうに面白かった。
話の筋としては、放屁芸で殿様を喜ばせて財産をなした福富長者というおじいさんがいて、それをうらやんだ近所のおばあさんが自分の夫に「おまえも放屁芸でも会得してひと儲けしてこい」的なことを言って、そのおじいさんは福富長者のところに放屁芸の秘訣を教わりにいくのだけれど、福富長者が自分の芸の希少価値を下げるようなまねをするわけがなくて、朝顔の種(当時は下剤として使われていたらしい)を飲んだらいいよ、と言って、帰す。おじいさんは福富長者に言われたとおりに朝顔の種を飲んで殿様のところへ出向き、自分も放屁芸が出来ますといって、いざ披露する。けれども下剤が効いてきて、放屁どころかその場で脱糞してしまって、さんざんに打たれて放り出される。 血だらけで、這々の体で帰ってきたおじいさんを遠目に発見したおばあさんは、流血しているおじいさんの血の赤を、褒美にもらった着物の色だと素っ頓狂な勘違いをして、家にあった古い着物を焼いてしまう。そこにおじいさんが帰ってきて…というようなもの。

それが何ともユーモラスなタッチで描かれていて、打たれて流血しているおじいさんやら、帰ってきたおじいさんの汚れた着物を本当に嫌そうに、鼻をつまみながら洗濯するおばあさんやらの画なんてね、秀逸でしたね。やるなぁ室町人。

それから、縁起絵巻とか高僧絵伝でいくつか仏像が描かれているものがあったけど、あらかたどれも、金ぴかなのね、やっぱり。でも『東大寺大仏縁起』(室町期)だけちょっと抑えた色味だった。それがなんだか印象的で面白かった。


特別展の会場を出てから平常展示館に行って、1階の仏パラダイスで一人悦に入る。『千手観音坐像香合仏*1』とか、三十三間堂の千手とか、その手前にあった小さめの千手とか、素敵な千手がたくさんいた。あと、どこの寺のものだったか失念したけれど、四天王がひとり、ピンで来ていて、それが踏んでいる邪鬼ちゃんがもう、ユーモラスとか、そういうような口をうかつには挟めないくらいに突き抜けた表現で面白かった。もはや鬼のかたちなのかなんなのか分からないことになっちゃってた。邪鬼もいろいろですね。ほんとうに。

*1:その名の通り、携帯用に香合のような形になっている。どこでも千手はちょっと魅力。