バタイユ入門/酒井健

バタイユ入門 (ちくま新書)

バタイユ入門 (ちくま新書)

『聖なるもの』とか『至高性』とか『力〈フォルス〉と力〈ピュイサンス〉』とかいうバタイユのキーワードだけを見ていると、どうしたって抽象的で、「ツライ」という印象を持ってしまうけれど、思いの外読みやすくて、同時代の西洋の動向や社会的背景、さらにニーチェヘーゲルハイデガーとの思想的な関係までかなり丁寧に解説されていて、息を詰めることなく、比較的「楽しく」読むことができた。


『内的体験は、体験それ自体が権威だが、この権威は体験のさなかにだけあって、体験が終了すると自らを打ち消さねばならない』というブランショの助言をもとにした、「非力さ」〈アンピュイサンス〉としてのフォルスの理論的・議論的な部分はおそらく理解できたと思うが、実際に即した時に、それを固定化せずに湧き上がり消滅するに任せるというあたりが、いまいち掴めない感じかなぁ。

あと、印象に残ったのは

文学は、「行動」の大人(メジャー)の世界のなかで、未成年(マイナー)の位置にあり、そのようなものとして自己の真正性を承認させるべく大人の世界に闘争を挑んでいる。…(中略)…未成年(マイナー)ということは、非力(アンピュイサンス)ということである。つまり力(フォルス)に忠実であるということだ。「行動」の大人(メジャー)の世界に対する文学の闘争は、故に、二つの質の異なる力すなわち力(ピュイサンス)と力(フォルス)の間の闘争、質的に相違する者が対峙する非対称の闘争なのである。

という文学観のあたり。